3月15日(木)~3月21日(水)の期間、フーディソン×三重県紀北町主催プロジェクト「魚ポチ紀北町フェア」を開催します。今回は本フェアに先駆けて、紀北町の百年続く魚と人々の暮らしぶりをフーディソン製作のパンフレットからご紹介します。
人の暮らし
夜明け前の午前5時、船の上には、出港前のひと時を過ごす漁師たちの姿が見える。手際よく準備をする漁師、野菜を切って鍋に放り込む漁師もいる。漁が終わった後に漁獲した魚を使って作る大敷汁を作るための準備だ。
紀北町島勝浦は、およそ100年前の1898年頃、三重県で初めて鰤の定置網漁「大敷網」が発祥した土地と言われている。当時一般的な漁法だった釣りと比べると定置網は非常に多くの鰤を漁獲できたため、最盛期は島勝浦の小さな土地に映画館ができるほど豊かな土地として一時代を築いた。その後鰤の養殖の取り組みなどもあり一時的に漁獲が落ち込むこともあったが、現在ではほとんど養殖は行われておらず、天然の鰤を自然から分けてもらう大敷網漁が主流となっている。船を出して生活の糧を得ることと、土地で生活することは一体になっている。
漁が終わると、漁の前に仕込んだ鍋に漁獲した魚を船上で豪快にぶつ切りにして大敷汁に入れる。漁の最中とは違うリラックスした表情で鍋を食べる姿は、100年前と変わらない。
森と漁場
島勝浦を取り巻く熊野灘は、黒潮が流れ込む豊かな漁場だ。耕地面積が1%程度と農用地の確保が難しい一方で古くから林業が盛んなこの土地は、人工林の9割をヒノキが占める全国でも例を見ないヒノキ造林地帯だ。地域独自の伝統性が評価され、平成29年には日本農業遺産にも認定されている。高品質なヒノキを生産しながら森と海のつながりを意識し、生物多様性を確保する、「魚つき林」と呼ばれる漁場を守る森は日本で初めてFSC※認証を取得した。魚つき林が水産資源を守るという事は江戸時代から経験的に知られていて、豊かな漁場には欠かせない。島勝浦では、林業による森の保護だけでなく、開発による森林伐採から豊かな漁場を守るため、漁師が魚つき林の一部を買い取り、継続的な漁場の確保にも努めている。
次の百年に向けて
「定置網は3割漁業と言われていて、網にかかかった魚の全体の7割ほどは自然に網から逃げる仕組みになっています。網の目も「運動場」と呼ばれる魚を囲い込む網は、小魚が逃げられるぐらい粗い目になっていて、自然と獲りすぎないような仕組みが出来上がっています。そのため環境にも、自然にも資源にも優しい漁法だと言われています」と島勝大敷の初代社長山口茂道さんは語る。島勝浦は、自然の恵みをいっぱいに受ける豊かな土地だが、自然に甘えることなく、生活を通して漁場や森を守ってきているのだ。
「環境を守るために、環境だけに着目してしまうと、地元の経済が成り立っていかない、我々は資源に着目し、海をインキュベーターに見立て、海に資源を育ててもらい、その恵みと共存する、そんな未来を島勝大敷は目指していきたいと考えている」