100年以上前から受け継がれる手法で、焼ちくわを作り続けている青森市の「丸石沼田商店」。同社で代々、大切にしている商品への想いやこだわりなどを、“ちくわ社長”として精力的に活動する5代目・沼田祐寛社長に伺いました。
青森の老舗“焼ちくわ屋” 丸石沼田商店
下北半島と津軽半島に囲まれ、八甲田山系、白神山地のブナ林から栄養豊富な水が注ぎ込む陸奥湾。この恵みの海には多種多様な魚介が集まり、特にホタテガイの養殖が盛んです。
その陸奥湾から程近い堤川の河口付近に、事務所と工場を構えているのが株式会社丸石沼田商店です。創業は1918年。青森の焼ちくわ製造会社の中でも、最も歴史のある会社です。
「弊社は漁港のすぐそばにあり、八甲田山の伏流水が流れる当地で100年以上“焼ちくわ屋”を営んできました」と説明してくれたのは、代表取締役の沼田祐寛さん。「元々、初代が出身地の石巻市で焼ちくわの製造業を営んでいましたが、当時の一般的な原材料だったアブラノツノザメが不漁になったことから、原材料を求めて青森へ移ってきました」。
“ちくわの輪”ポーズを披露する沼田祐寛 代表取締役
100年以上受け継がれてきた品質へのこだわり
諸説あるものの、青森市は戦前、焼ちくわの生産量が日本一だったといわれています。沼田社長は「市内には多い時で20数社のちくわ・蒲鉾メーカーがあったと聞いています」と語りました。実際に、1932年に発行された青森市の観光ガイド『吉田初三郎の鳥瞰図』では、名産品として焼ちくわが紹介されたほど。しかし、現在残っているのは同社を含めて2社のみとなっています。
多くの会社がなくなる中、根強い支持を得てきた丸石沼田商店。その理由を沼田社長は「どんな時代にも商品のクオリティを下げなかったことです。社会が低価格志向となり、他社が質を落としてでもいかに安くできるか取り組んでいる時代に、弊社は『昔からのお客様を大切にしよう』と品質を守り続けてきました」といい、「その分、他社と比べて高価になりますが、それでも多くのお客様がこの味を求め続けてくれるのはありがたいです」と感謝を口にしました。
丸石沼田商店の外観。社名は創業者の出身地である石巻の石を、丸で囲んだもの
昔ながらの手法でじっくり焼き上げる「焼ちくわ」
丸石沼田商店の看板商品「焼ちくわ」は、昔ながらの手法で作り続けられています。その別称は“牡丹ちくわ”。ちくわの皮のこげ目が大きく、美しい牡丹の花びらに似ていることから、そう呼ばれるようになりました。「昔から青森の焼ちくわは味、食感、見た目が築地市場などで評判だったと先代から聞きました」と沼田さん。
約20cmの長さでボリューム感のある焼ちくわ
原料には、鮮度のいいスケソウダラを使用。そのすり身を御影石の臼と桜の木の杵で約30分かけて丹念に擦り上げます。これにより魚肉の繊維がきめ細かくなり、もっちりとした食感に。その後、22メートルある長い焼炉で、5分間400℃で加熱、さらに800℃の直火でじっくり焼き上げることで、ぷりぷりとした歯応えが堪能できる逸品に仕上がります。
牡丹の焼き目には、煮込んだ際に出汁などがしっかり染み込みます
沼田さんは「魚肉の割合が65%もあるので、魚本来の弾力と旨味が味わえ、食べ応えも十分です!本当にうまいんですよ!」と自信を見せ、さらに「ちくわには和食のイメージがありますが、弊社の焼ちくわは煮込んでも崩れないので、カレーなどにもぴったりです」と話しました。
その言葉通り、同社のホームページには、焼ちくわを使用した多彩なレシピが掲載されています。なお、沼田さんの一押しは「ちくわチーズの豚バラ巻き」。「パーティーなどの際に作るのですが、とても好評です!」とお勧めしてくれました。
ちくわチーズの豚バラ巻き
ちくわのおいしさを、もっと多くの人に。
今後の展望を沼田さんに伺うと「新しいお客様との接点を増やし、“ちくわの輪”を広めることで、弊社だけではなく、地域の活性化につなげたいと考えています」と語りました。
その施策の一つが、地域の食材を活かした商品開発です。「ちくわは、さまざまな食材に合わせやすい食材です。例えば青森はごぼう、長芋、嶽きみ(とうもろこし)など隠れた特産品がたくさんあるので、それらと掛け合わせることで、地域の新たな名物を生み出したいですね!」。
沼田さんは“ちくわ社長”としてイベントを開催
また、近年はインスタグラムでの発信に注力するほか、自身を「ちくわ社長」と称してイベントなどを開催しています。「お客様には高齢の方が多いので、若い方にも、ちくわをより身近に感じてもらうことが狙いです」と沼田さん。その他にも小学校の社会見学の受け入れなど、精力的に活動しています。
最後に飲食店の皆さんへメッセージをお願いしました。「他社のちくわと比べて、魚肉を多く使用しており、しっかりと魚のおいしさが感じられます。ちくわは和洋中さまざまな料理に使うことができるので、ぜひお店のメニューに採用いただき、一緒にちくわの輪を広げてもらえれば幸いです!」。並々ならぬ、ちくわ愛を胸に、沼田さんは挑戦を続けます。
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